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【東京】世界を知って日本のリンゴを見つめ直そう

開催日:2008年1月25日(金)19:00~21:00
講師:小池 洋男先生

Rimg0554_3 「世界を知って日本のリンゴを見つめ直そう」

身近なフルーツと言って、まず思い浮かべるのは、ミカンと並んでリンゴではないでしょうか?見慣れたはずのリンゴも、世界という視点から見たとき、新しい魅力が見えてきます。 お話いただいたのは、長野県果樹試験場の元場長でもある農学博士の小池洋男先生。お話はリンゴの歴史から品種、海外事情まで、非常に多彩です。

【世界のリンゴの歴史】 Rimg0546_6
●カワイくて渋い、「クラブアップル」

リンゴの原産地は、コーカサス地方と言われていますが、現在あるリンゴは、基本的に2つに大別されます。いわゆる「アップル=西洋リンゴ」と「クラブアップル」です。 私たちが普段食べているリンゴは「西洋リンゴ」に属するものですが、欧米では「クラブアップル」も盛んに作られています。野生種に近いもので、日本で言えば「姫リンゴ」。小さくてかわいらしく、まるでサクランボのようです。しかし渋み成分のタンニンが多く、食べても酸味や苦味が強く、美味しくないのだとか。しかし、これがお酒(シードルやカルヴァドス)を作るにはぴったりなのだそうです。ヨーロッパでは非常に古くから、アングロサクソン系の人々が、このクラブアップルを改良した専用種でお酒を作り、親しんできました。良質な飲料水が少ないヨーロッパでは、お酒は嗜好品という以上に重要な意味を持っていたのです。16世紀ごろまでは、リンゴと言えば100gほどの大きさのクラブアップルが中心だったのです。

●リンゴ聖者の名をもらったリンゴ
17世紀になると、移民によりアメリカにもリンゴが伝わり、東海岸に定着しました。アメリカでは、発酵させないで簡単に作るサイダーや発酵させたリンゴ酒(ハードサイダー)が作られるようになりました。そのサイダー工場から出る種を一生懸命集めていたのが、ジョナサン・チャップマンという人物です。彼は粗末な身なりに裸足といういでたちで、北米各地に種を配り歩きながら、熱心にリンゴ栽培を広めました。彼によって各地で根付いたリンゴは、その後品種改良の親となり、ジョナサンは「種まきジョニー」「リンゴの聖者」などとたたえられるようになったとか。その後19世紀になって、ヨーロッパやアメリカで、青果用の美味しい新品種が次々に生まれました。彼の名前をとって品種名にしたのが「ジョナサン」、日本名で言う「紅玉」です。私たちが今、美味しいリンゴを食べられるのは、「裸足のリンゴ聖者」のおかげかもしれません。

【世界のリンゴ事情・リンゴ文化】
お話だけでなく、たくさんのスライドを見せていただきながらの講義。興味深いお話が、食べ比べの間にも次々と繰り出され、思わず引き込まれました。

●「贈答文化」の日本、「丸かじり文化」の欧米
みなさんは、日本のリンゴの消費量をご存知ですか?ひとり年間平均5kg位だそうです。イタリアでは、年間平均なんと25kg!!欧米に比べて、日本がこんなに少ないなんて!この違いは、やはりリンゴ文化の違いによるのだと小池先生はおっしゃいます。 日本のリンゴは、「贈答文化」として発達してきた経緯があり、「大きく立派で、生で食べても甘く、味が良い」ものが好まれてきました。が、この傾向は、実は日本だけ。欧米ではリンゴはもっとずっと身近なフルーツ。日本のように、お上品に皮を剥いてカットして食後のデザートに…というよりも、小ぶりのリンゴをポケットから取り出しガブリ!…と、丸かじりするイメージなのです。もちろんアップルパイや焼きリンゴなど、加工して食べるのも日常的な光景。欧米のリンゴの歴史と考え合わせると、リンゴに対する親密感が我々とは全然違い、これが消費量の違いに現れているのかもしれません。

●観賞用としてのリンゴ~可憐なエスパリエ仕立て
欧米では「クラブアップル」系のリンゴも大変種類が多く、お酒などタンニンを利用した加工のほか、観賞用の品種も多く出回っています。スライドを見せていただきましたが、日本で言えばまさに「サクラ」。花が大変美しく、実をつけた様子もとても可愛らしく、園芸利用はごく一般的というのもうなずけます。特にイギリスで発達した「エスパリエ」(垣根やワイヤーに這わせて形作るガーデニング)仕立てにも、クラブアップルが多く使われます。日本でも近年、「花」としての人気が出てきたそうです。

●「蜜入り」は障害果?!Rimg0547_3
日本では「蜜入り」は美味しいリンゴの代名詞。ところが、海外では「蜜入り」は「ウォーターコア」と言って、障害果として敬遠されてしまうそうです!リンゴの葉で作られた糖はソルビトール(果糖の一種)に変化し、通常は果実の中で果糖などに変えられて蓄積します。しかし成熟するにつれ、細胞の隙間にあふれてしまったソルビトールが「蜜」の正体なのです。つまり「蜜」自体が特別甘いわけではないのですが、その頃には果糖やブドウ糖が果実にたっぷり蓄積しており、甘くて美味しい証拠となるのです。しかし、「蜜」がたくさん入ると、貯蔵がきかないという一面も。周囲の炭酸ガス濃度が高まったり温度が上がったりすると、すぐに蜜の部分が褐変してしまうのです。これが「蜜入りは障害」とされるわけです。 日本で蜜という表現を用いていることから「ハニーコア」とう英語が生まれましたが、欧米の消費者に蜜入りリンゴは受け入れられないようです。

●日進月歩の鮮度保持技術、今注目されているのは…
リンゴはエチレン生成量も感受性も高く、鮮度保持にも気を使う果物です。日本では普通冷蔵やCA貯蔵が主流ですが、世界の最新事情は… 最近話題なのは「1-MCP」。別名「スマートフレッシュ」というエチレン作用阻害剤で、収穫後にこれを密閉状態でガス処理すると、未熟でも完熟でも、そのときの状態のままで長く保存ができるそうです。しかもほとんど残留しないのです。いわゆるポストハーベストということになり、米国ではもう商業利用が認可され、世界的にも使われていく方向にあります。日本ではまだ許可されていませんが、いずれ許可されるかもしれません。国産の果実にも、ポストハーベストが使われる時代がくるのでしょうか?

●世界では生産過剰気味のリンゴ~国際競争が激化!
今、世界のリンゴ生産は過剰気味なのだそうです。みなさんは世界のリンゴ生産量第1位の国を知っていますか?答えはダントツで中国です。なんと2000万t以上、世界の40%以上を生産しているリンゴ大国なのです。まったく知らなかったので驚きました。今や世界のリンゴの20%のシェアを占めている日本生まれの「ふじ」も、その大半は中国で作られているそうです。中国は、安価なリンゴ濃縮果汁も大量に輸出しています。主な輸出先はアメリカ、EU、そして日本です。日本でも、 多くの加工食品に添加利用されていると思われます。

●阻止できるか?「火傷病」~国際的な紛争に
日本ではニュージーランド産リンゴを皮切りに、次々と海外からのリンゴ輸入が解禁され、国内産地は苦しい立場に立たされています。リンゴの輸入解禁は、国内のリンゴ生産を圧迫すると同時に、別の深刻な問題もあります。それは植物防疫上の問題です。特に問題となっているのは「火傷病(やけどびょう)」です。バクテリアによるアメリカの土着病で、日本では未発生。感染するとリンゴが火にあぶられたように褐変します。この「火傷病」に対する日本の検疫措置が厳しすぎるとして、アメリカがWTOに提訴し、なんと日本は負けてしまったのです。検疫措置が緩和されたため、これからは、外国産リンゴの輸入が増えることや、いつこの病気が侵入してくるかもしれず、日本の農業関係者は戦々恐々としています。

●効率化の勝負へ~広がる「わい化栽培」
リンゴ栽培の効率化・省力化という点で、今欠かせない技術が「わい化栽培」なのだそうです。ヨーロッパで盛んな栽培方法で、近年日本にも急速に普及しています。「わい性台木」と言って、通常よりコンパクトに育つ種類のリンゴを台木にし、これに接木するのです。木が大きくならず剪定も収穫も容易になり、農薬も少なくてすみ、さらに密植栽培することができるので収量も上がることが多い…と、リンゴ栽培が格段に楽になります。高齢化の進む日本のリンゴ農家の、救世主となるかもしれません。

●話題の「ピンクレディー」が日本に上陸!
本日の目玉とも言えるのが、この「ピンクレディー」です。オーストラリアで生まれた新しいリンゴで、その名の通り濃いピンク色の鮮やかさ、味の良さなどから、今、世界的人気を呼んでいます。実はこのリンゴ、作りたいからといって勝手には栽培できないのです。「ピンクレディー」の栽培に対する権利は、オーストラリアの生産団体である「APAL(アイパル)」が所有しており、栽培するならAPALと契約を結び、ピンクレディー協会の会員になる必要があります。そして苗木生産と商標使用に対し、一定の使用料を支払うという国際ルールがあるのです。このような国際的な契約栽培システムをとるものを「クラブ制品種」といい、新品種の権利保護の新しい形として、世界的な流れになりつつあるのだそうです。 そして日本でもついに、2006年に「日本ピンクレディー協会」が設立され、わずかずつですが栽培が始まりました。今日はこの貴重なリンゴを試食できるのが楽しみです!

Rimg0556【お待ちかねの食べ比べです】
「ふじ」だけは知っているものの、他はほとんど食べたことのない、目新しいリンゴばかりがズラリ! 全部ではありませんが、印象に残ったものをご紹介。あくまでも個人的な感想です。

●「あいかの香り」ふじ×つがる。
深い赤の縞が入る外観。歯ざわりが良く、酸味も少なく美味しい…と書くと普通ですが、その名の通り、特徴的な香りと甘さを持っていると感じ、印象に残りました。うまく表現できませんが、他のリンゴとは違う独特の香りがふんわりと口に広がります。私だけの感想かもしれませんが。

●「秋映(あきばえ)」ふじ×青り3号。
黒に近いほどの深紅色。非常に印象に残る外観です。サクッとした口当たりでジューシー。糖も酸も比較的おだやかで、優しい美味しさを感じました。「シナノゴールド」「シナノスイート」とともに「リンゴ3兄弟」として人気です。

●「シナノピッコロ」ゴールデンデリシャス×あかね。
小さくて真っ赤、可愛らしい外観。丸かじり用に開発された品種で、お年寄りや子供でも食べきれるサイズです。果肉はサックリと柔らかめで食べやすく、糖も酸もほどよい感じでした。

●「グラニースミス」偶然実生。
美しい黄緑で、まさしく絵に描いたような「青リンゴ」です。シャキッとして歯ざわりがとてもよく、確かに酸味が強いのですが、酸っぱいだけでなく甘さもあるし、美味しい!お菓子はもちろん生食でも充分いけます。サラダにも合いそうです。

●「ぐんま名月」あかぎ×ふじ。
薄い黄色地に、ほんのり緑とピンクのグラデーション。なんて美しい!その名のとおり、まさに「名月」です。甘みは強く、ほどよい酸味もあり食味良好。歯ざわりはサックリしているが硬くなく、中間的。いくらでも食べられそうです。

●「シナノゴールド」ゴールデンデリシャス×千秋。
薄く斑点の入った黄色のリンゴ。パリッとした食感はまさに「クリスプ」。甘さとともに酸味があり、さわやかな食味です。甘さが勝っているリンゴが多い中では印象的です。粉質化しにくく、クリスプ感が長持ちするそうです。

●「スリムレッド」ふじ×あかぎ。
黄地に鮮紅色の縞が入り、形が少~し縦長っぽくて、名前の通りスリムな感じ。パリッとして歯ざわりが良く、甘いですが酸味も効いていて、サッパリするさわやかな味です。果汁が多くジューシー感があります。

●「ピンクレディー」ゴールデンデリシャス×レディーウイリアムズ。
小ぶりで、鮮やかなピンクがかった赤色。確かにこの色は、国内のリンゴでは見かけない美しさです。甘さの中に酸味が効いていてさわやか。そういえばリンゴの味を「甘酸っぱい初恋の味」と形容することがありますが、まさにこの味ではないか、と思わせました。歯ざわりもよく、香りがまた、さわやかな良い香り。貯蔵性も高く、本当はあと1ヶ月位先のほうが、もっと味が良いとのことです。その頃もう一度食べてみたい! Rimg0557

ただの食べ比べではなく、こんなに多岐にわたるお話が聞けるとは思いませんでした。まさにタイトルどおり「世界を知って日本のリンゴを」見る目が変わりました!小池先生、ありがとうございました。

大谷ゆかり (ベジタブル&フルーツマイスター)
 昨年末マイスターを取得しました。今は別の業界のライターを仕事にしていますが、将来は食や健康を得意分野にしたいと思い、まだまだ勉強中の身です。野菜や農業のことは勉強すればするほど、その魅力・奥深さに驚くばかり。この感動を少しでもわかりやすく、楽しく、伝えることができるようになりたいと思っています。