【東京】「食料自給率」と「フードマイレージ」:環境と食料の問題
「食料自給率」と「フードマイレージ」:環境と食料の問題
日時:10月15日(木)14:00~16:00
会場:協会本部 渋谷第三教室
講師:株式会社 農水産ID 藤井淳生 先生
藤井淳生先生の『12ヶ月講座』もいよいよ最終回となりました。
最後のテーマは、食料と環境問題を理解するためには避けて通れない
「食料自給率」と「フードマイレージ」です。
「まずは疑ってかかれ」と常々おっしゃっている藤井先生。
「食料自給率の問題点」、「じつは日本は水不足」、
「食料輸入は土を輸入するということ」など、
今回も世間一般で言われていることとは少し視点を変えた、
興味深い話がたくさん飛び出しました。
1.日本の食料自給率の数値 ~○○ベースとは何か~
日本の食料自給率は41%。
この数値は先進国の中で最低です。
ただ、自給率を表す数値は3種類あることをご存知でしょうか。
●カロリーベース自給率
=(国産供給熱量÷国内総供給量)×100
食品から得られるカロリー(熱量)を根拠にして求めた数値
●重量ベース自給率
=(国内生産量÷国内消費仕向量)×100
食品の重量を根拠にして求めた数値
●金額ベース自給率
=(国内総生産額÷国内消費生産額)×100
食品の生産金額を根拠にして求めた数値
ちなみに先ほど41%と書いたのはカロリーベース自給率。
マスコミなどで大きく取りあげられるのは、この数値です。
じつは自給率はどれを採用するかで、数値が大きく変化します。
たとえば、日本の自給率は重量ベースだと61%、金額ベースで65%になります。
(各自給率は全て平成19年速報値)
日本では「生命活動に欠かせない熱量で換算するのが適切」として
カロリーベース自給率を用いています。
しかしこれを採用しているのは、じつは日本だけで世界では重量ベースが一般的です。
なんと海外のカロリーベース自給率も日本が独自に計算しているのです。
またカロリーベース自給率は、
・国産畜産物のうち輸入飼料を用いたぶんは差し引く
・熱量の高い穀物の変動で大きく変化する
(野菜はカロリーが低いのであまり寄与していない)
・分母の国内総供給量とは、あくまで国内に供給された量であって国内で
消費した量ではないというように算出方法がややこしくなっており、
「カロリーベースのみで自給率を議論することは問題」という意見があります。
2.フードマイレージとバーチャルウォーター ~じつは日本は水不足?~
フードマイレージ(t・km)は、食料輸入量重量(t)×輸出国までの輸送距離(km)を
表します。
同じ重量の食料なら、生産地と消費地からの距離が近いほどその数値は小さく、
遠いほど数値は大きくなるというわけです。
食料品がどれだけ遠くからやってきたかを知る目安になり、
さらにはそこからCO2排出量に影響を与えたか、を考える指標にもなっています。
海の向こうのアメリカやブラジルから大量の穀物を輸入している我が国では
当然その数値は大きく、5002億t・km(平成12年)。
これは韓国の1487億t・kmやアメリカの1359億t・kmと比べ3倍以上の数値。
さらに一人あたりに換算すると、なんと日本はアメリカの約8倍のフードマイレージです。
バーチャルウォーター(仮想水)は、食料を輸入している消費国が、
もしその食料を生産するとしたら、どの程度の水が必要になるかを推定した考え方です。
降水量が高く、潤沢な水資源があるように見える日本ですが、
この考え方をすると大変な水不足の国になります。
つまり、輸入した農産物や食品をつくる過程で使われた外国の水、
これを日本の水で補おうとすると全然足りないのです。
日本へのバーチャルウォーターの総輸入量は640億㎥/年ですが、
国内のかんがい用水使用量は590億㎥/年。
また別のデータで見ると、日本国民一人当たりの水資源量は年間3334㎥で、
これは乾燥した欧州の国々と大差ありません。
地域を限定して、関東地方の住民一人当たりで見ると、
年間905㎥となりアフリカのケニア以下です。
3.食料を輸入する=○○を輸入する
食料輸入は、単に「食べものを輸入する」わけではありません。
食料生産に必要な「資源を輸入する」とも言い換えられます。
●「水」を輸入する
先ほどのバーチャルウォーターのように、
農産物生産は海外の水資源に依存しています。
日本は決して水が豊かとは言えません。
また言い方を変えれば、私たちは生産国、
地域の水資源を消費していることになります。
●「土」と「土壌成分」を輸入する
農産物生産には土、そして農産物の栄養源となる土壌中の
重金属・微量要素が欠かせません。
水と同様に、日本は土と土壌成分も生産国から輸入していると言えます。
私たちの胃が満たされ、栄養状態が良くなる一方で、
農産物生産がおこなわれた畑の土は養分を持ち去られた状態です。
ここで私たちの排泄物や残飯が、海外の土地に還元されるなら
土壌成分の収支は合いますが、
それらは日本に残ったまま。
農産物の輸入は、世界の土壌成分の偏在にも繋がっているのです。
●「窒素」と「炭素」を輸入する
農産物には私たちのからだづくりに必要な三大要素が含まれています。
小麦に含まれる炭水化物、大豆に含まれるタンパク質はまさにそれ。
さらに言えば、タンパク質合成には窒素が、
炭水化物合成には炭素が欠かせないことから、
日本は大量の窒素や炭素を輸入していることにもなります。
炭素や窒素は空気中に豊富にありますが、
人間は空気から直接栄養は摂取できません。
主に植物がからだに取り入れ、それを私たちが食べて栄養にしており、
農産物の仲介なしでの摂取は難しいのです。
今回伺った話から考えると、
カロリーベース自給率は、食糧自給を考える上での
「あくまで一つの尺度に過ぎない」ということがよくわかりました。
私たちは「41%」という数値だけを見て踊らされず、3つの自給率の数値を見て、
総合的に考えなければならないでしょう。
さらに、外国から食料を買うということは、
海外の「水」、「土壌成分」、「炭素や窒素」などの資源を買うに等しい、
ということへの意識。
食料輸入量の数字だけを見ていたら絶対に気付かないことでしょう。
政府などが提示する資料から、
そのデータが何を意図しているかを読み取ることを日頃から忘れてはいけません。
また、その情報発信源が何処で、何を意図し、誰が得をしているのかも。
「疑ってかかる」、「数値から意味を読み取る」、
そして「メディアリテラシーを持つ」こと。
藤井先生が講義を通して一年間おっしゃってきた言葉です。
12ヶ月講座は今回で終わりですが、これらの言葉を忘れずに、
これからも多くの情報と向かい合っていかなければならないと再確認しました。
ジュニア・ベジタブル&フルーツマイスター 橋本哲弥
農業・園芸分野のライターとして活動中。
主に農業や野菜づくりの本などを手がける。
野菜ソムリエ協会では、メルマガ「野菜大好き」、
食卓まわりの資格・イベント・情報サイト「ちゃぶーん!」、
フリーペーパー「野菜ソムリエ」などの執筆をおこなう。
また農家でもあり、千葉の片田舎でこっそりと梨の生産・販売に勤しんでいる。


