【福岡】青果物流通の現状を知ろう
日時:平成23年3月10日(木)
会場:協会本部 福岡教室
講師:株式会社 農経新聞社 代表取締役社長 宮澤信一氏
日本野菜ソムリエ協会において、農経新聞の宮澤社長を招き「青果物流通の現状を知ろう」
と題して講義をおこなっていただきました。
宮澤氏は、以前青果物流通の仕事から農経新聞社を創設、
現在は、本協会のシニアアドバイザーとしてもご活躍です。
早速ですが、講義の内容としては、下記の項目に従って進めていただきました。
1.知っていてほしいデータ
2.青果物流通の基礎知識
3.卸売り市場流通で今こっていること
4.小売業者~消費者の間で今起こっていること
5.野菜ソムリエの皆さんに考えて欲しいこと
1.知っていてほしいデータについて
① 野菜の17%は出荷されない。しかし、これでも年々改善されている・・
というものでした。但し出荷されない分は、規格外として直売所に出荷されたり、
訳ありとして安く売らせていて、ともすれば農産物が安く評価される引き金となり、
結果、若手の専業農家が、犠牲になりはしないかという懸念でした。
② 作付け面積が、1割以上減少しても野菜の出荷量は逆に増えている・・・
例えば、平成10年と20年を基準に考えてみると、野菜の作付け面積は560.100ha
から1割近く減少しているにもかかわらず、収穫量はあまり減少してしていません。
これは、技術が進歩し生産性が向上したことと、高齢者層移行に伴う体力の低下が
少ないことを示していると考えられます。
③ 生産量に占める系統扱いのシェアー(共販率)は6割程度・・・
④ 野菜の輸入量はそんなに多くない・・・
2010年の生鮮野菜の輸入量をみると、78.7000tで、冷凍野菜を含めても国内生産量の約1割となっています。
2.青果物流通の基礎知識について
図を用いて、複雑な流通について説明をしていただきました。
3.青果物の卸売り市場流通で今こっていること
① 平成3年をピークとして市場流通が縮小し、卸売市場の取り扱いが低迷していること
特に21年の野菜における低下率は、数量で20%、扱い高で31%、単価で18%と
それぞれ減少しています。
② 生鮮食料品が、卸売市場を経由する堀合の低下
平成元年における低下率は、野菜で85.3%、果実で78%、それらを合わせた青果で
82%でしたが、平成19年では、それぞれ、73.2%、43.6%、61.7%と極端に
低下しています。
③ セリ割合の低下(量販店向けの相対取引の増加)
中央市場における平成5年のセリ割合をみると、野菜60%、果実56.5%、青果で58.7%でしたが、
平成20年では、それぞれ17.3%、21.4%、8.7%と極端に落ち込んでいます。
このほか委託集荷の割合の低下による買付集荷の増加や利益率の低下による経営格差の拡大が考えられます。
4.小売業者~消費者の間で今起こっていること
① 所得の減少
勤労世帯の可処分所得の減少による食料品への支出の減少が続いています。
特に魚介類、米、生鮮果実と落ち込みが激しく、近年果実離れが激しいようです。
一方で、携帯などの通信費は好調とされています。
② 小売商の衰退
商業統計では、青果店S51からみると、H19では36%にまで減少していますが、
鮮魚店ではさらに落ち込みが激しいようです。
③ 百貨店の減少
これも商業統計によると、ピーク時の50%とまさに高く売るという商法の限界が来ているようです。
④ 直売所が大人気
2010年農林業センサスによると、全国の直売所数は16.824店舗、年間の平均売り上げ額は、
約1億円で最大30億円を超す店舗も見受けられます。
⑤ 増えない青果物摂取
厚生労働省の調査によると、平成13年は、1人1日当たり279.5gですが、
21年は、280.9gとほとんど変わっていません。一方、肉類や嗜好飲料は、かなり増えています。
5.野菜ソムリエの皆さんに考えて欲しいこと
① なぜ青果物の摂取量が増えないのか
野菜ソムリエの創出・食育・地産地消が叫ばれながらも、野菜の摂取量は増えていない。
一方、アメリカは、未保険加入者が全体の1/6という社会的背景もあり、
健康に対する関心も高く、野菜・果物の消費量は多い。
今後、抜本的な対策が必要です。
② 豊作時の産地廃棄や規格外品の処理が課題
このことは、全体の価格を引き下げる危険度が高く、高齢農家を優遇することが
果たして日本の将来の食糧供給にプラスか、もはや地域内の販売競争が激化し、
「負のスパイラル」から手を引けなくなっているのが現状ではないか・・・
という指摘がありました。
③ 産直でコスト削減が解消できるか
生産者直売所は本当に安いのか、またスーパーの産直は限定的ではないか、
スポットでは可能と考えられるが、膨大なアイテムと周年供給は、コスト面、
人件費等で無理があるのではないか。
④ カロリーベースの食料自給率は、日本の農水省による「推計」
カロリーベースで自給率を考えるのは、おそらく日本だけ。
農水省における自給率の推計は、供給側からの推計であり、ロスが考慮されていない。
一方、厚生労働省の国民健康栄養調査によると、摂取する側の熱量推計であり、
それによると、自給率は54%である。
⑤ 価値は伝えるだけでなく「発見してあげよう」
価値にも共通の価値観と固有の価値観があります。
野菜ソムリエとして伝える人の固有の価値観の発見のお手伝いをして、
それぞれの地域でご活躍を期待します。
今回3月10日、日本野菜ソムリエ協会において宮澤先生の講演に際し、
その要旨をご報告する機会をいただきました。
その後、去る11日の東日本大震災で未だ混乱の最中にあることはご承知の通りです。
加えて農産物の放射線汚染まで報じられ、さらに混迷の度を深めています。
今後、復旧に向けて様々な方向から対策が講じられると考えられますが、
相当時間を要することは想像に難くありません。
同時に、これまでの農産物をめぐる実情も大きく変化することが予想されます。
量の逼迫や需給関係の乱れ、それに伴う価格の急激な変動、TPP問題の去就、
この先日本全体、優先順位や価値観の変化、仕組み改訂など、
しばらくは注視しておく必要もあるかと思われます。
被災者の皆様の1日も早い復興を願うことはもちろんですが、
野菜ソムリエとしても宮澤先生のご講演を、今一度、冷静な目で再考できる日を待ちたいものです。
レポート作成者:野菜ソムリエ 畠山裕一